ひだ
あとづ川
ここまで出かけて来たんやからたかはら川で竿を振ればいいのにと、後ろ髪引かれながらさらに峠を上るのがあとづ川。たかはら川に注ぎ込むのにこの合流点からは道路が途切れていて、峠越えの立派な広域林道を利用することとなる。
ぽっかり平日休みとなった春に釣り道具屋を訪ねて遅がけのアマゴ釣りの情報を仕入れた。「北のアマゴは桜を追って釣れ」とは店主の口癖であったが、自ら釣りに出かけて開拓しているその言葉には千金の重みがあった。「“あとづ”って知っとるかい、いっぺん行ってみさっせい。」と聞いてヒラタを仕入れ、珍しく単独遠征となった。
たかはら川双六谷は前にも来たことがあるが、その谷沿いをさらに峠へ登った向こうに渓流があるとは知らなかった。ポンコツがディーゼルの黒煙を吐いて登りきると隠し里のような在所には春祭りの幟が立っていた。
主要道路が川を渡るところには先行者の県外ナンバーが停めてあり、さらに下って川沿いの道路が行き止まりになるあたりへ駐車する。下流へ向けて素晴らしい渓谷が見えるが、今日は単独ということもあり、小手調べに直下の淵から探り始めた。
一投目からあまごが餌を追って流心から泳ぎ出るのが見え、その淵だけで5匹をビクに収める。残雪がようやっと消えて雪に倒された川岸の柳が起き上がりかかり、遡行が楽な川ではなかったが淵や瀬ごとに魚信があって、ことごとくアマゴという久々に最高の釣りとなった。それでも午後から雪代が入り込んで増水し、川の奥深さを思い知った。
あとづ川は渡渉と高巻きを繰り返せば合流部の国道沿いから遡れない川ではないと聞いたが、帰路の道路が寸断されて手付かずになっているらしい、そここそがあとづ川の核心部なんやとは後から店主の話であった。
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