はちす川 | くもづ川の釣行で、俄然再燃した釣り熱。バイト代を突っ込んだポンコツを手に入れて、ガス代もままならないというのに本業の勉学もそっちのけで、大台山系の未知の渓流探しに夢中になった。 渓谷で有名な大杉谷のさらに北側のくしだ川なら日帰りできるやろうと、地図を見ながら夜明け前の国道を走りはちす渓谷へ辿り着く。国道を離れて一車線のアスファルト道路を川も見えずに走るといつしか舗装も切れてセンターに草の生えた地道と変わり白々明けの中に突然板葺き屋根の民家が現れてクルマを止めるとすぐ下から渓流の音が聞こえた。覗くと岩塊の間を飛沫が迸るような渓谷が道路近くまで迫っていた。 これはこれはと早々に仕掛けを解き、半長で岩を伝ってあまごを狙う。前もって用意したミミズには何の反応もなく、これまた自宅から持ってきておいた子供用のタモで川虫を探し、赤っぽいセムシとオニチョロを捕る。 川虫が住むところなら、必ずアマゴは育つはずと未知の川でも信念をもって振り込むと快心のアタリ。丸々とした20cmクラスのヒレピンあまごがタモに飛び込んできた。 半長で行けるところまで遡行して5つ6つ追加して見上げると、板葺き屋根の民家の庭先がすぐそこにあり、家人が珍しそうにこちらを見ていた。こんな山奥まで釣りに来る若い衆は珍しいんだろうが、見られていると妙にそわそわしてアタリがとれずにそこで引き返して納竿とした。 満足の釣行であったが、すぐ後でここがダムに沈むと知ってうらさびしい在所が妙に記憶に残っていた。これが最初で最後のはちす川釣行になったので、板屋根が今でも鮮明に思い出される。 |