しらはえ 毛鉤でサカナを釣るというのは幼少の頃より見聞きしていたから、やれハックルだのボディだのと薀蓄を深めていくことになってもまったく違和感がなかった。“毛鉤で釣る”というのはすなわち“酒の肴を釣る”もしくは“オカズを釣る”ということやった。
ジイさんが縁側に釣り道具を広げ、隣町で購ってきた“重兵衛毛鉤”という、ハリスがついて2本一組をナイロンの袋にきれいに丸めていれてある毛鉤をおもむろに取り出して道糸に括りつけていた。これが“かがしら”で、稚アユが放流される晩春の頃から、しらはえを釣るためにこさえているのであった。
しらはえは川を覗くとたくさん見えていつでも釣れるものだと思っていたが、いざ自分で釣るとなると狙って釣れるものではなく、だいたいむつばえやくそんぼ・うぐいが先に釣れてしまった。
ジイさんはその中でも小さなシラハエとウグイ、アマゴの稚魚なぞをビクに入れて帰り、甘露煮にして酒のサカナにしていた。
「坊っ、しらはえは骨がやーらかいで食えっ」と言われ箸を出してはみたもののちょっと苦味があって続けて2匹目をつまむということはなかったが、今目の前に湯気を立てるようなしらはえの甘露煮があったらどうにも酒が進んで止まらんやろなー。
あまごを狙うようになってからはしらはえなぞ見向きもしなくなったけど、ジイさんの年齢に近づいたらまた釣ってみるのやろうか。フロータント付けたミッジにティペットつけて2本一組で袋に入れておいて・・・。
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