おふくろの味 「芋の煮っころがし」

  「芋の煮っころがし」

 梅雨明けももう間近、春先畑に()えたジャガ芋(馬鈴薯(ばれいしょ))も熟成したのか葉もす枯れて茎だけをさらすのみとなった。梅雨の晴れ間を見て農家では芋掘りが行われる。残っている茎を頼りに芋の所在を確かめ(くわ)を打つと、大小様々なものが転がり出る。この芋は寒冷の地で()れるもの程美味(おい)しいと言われ、戦前の昭和十年代には本村でも山の焼畑で種芋(たねいも)生産が行われたことがあった。
 一昔前、芋といえばジャガ芋のことであって主食の代用として米同様に取り扱われ、その価値たるや千駄(一駄=一人前の力量)に匹敵するという所から、本村では別名センダ芋と呼ばれ、その収量は農家一年の農作を占う関心事でもあった。畑の収穫物としては、雑穀同様長期保存も効いて、年がら年中おふくろの調理の主役・脇役として登場してきた。
 さて、おふくろの此の芋料理の最たるものといえば、芋の煮ころがし(かっちり)であろう。小さめの芋を選りだし、皮をむかずに水洗いして水たっぷりに、ひね漬けの上ずみ汁を加えて塩少々振りまき、表皮にしわの寄るまで気長に煮込むのである。煮上がったら更に砂糖、たまり(醤油)、酒またはみりんを加え、それに食用油をたらし込んで甘露味(かんろみ)に仕上げる。余り煮過ぎると中の実がかたくなるので、頃合を見てゆるい(いろり)の薪を引く。後は余熱でその身そのままそのなりで夕餉(ゆうげ)の刻まで保たれる。子ども達はおふくろの目を盗んで箸につきさし、
「芋の煮えたのをご存知ないか。」
と、走り去る他愛もない風景もよく見られた。飯ざい(え)に丸ごとかむと中味がはちけて口中に飛び出し、甘い快い舌ざわり。梅雨の日のうっとうしさを吹き飛ばすには、最高の料理であった。
 また、大きめのものは二つに切って薄塩で煮しめ、テッキの上で並べて焼き、うっすら表に焦げ目のついたのを生姜溜(しょうがだまり)で食べるのも、おふくろの伝授してくれた芋料理であった。
 それからというものは、毎餉(まいげ)のおみおつけの中味には必ずといってよい程ジャガ芋が仲間入りした。昔のおふくろは無学じゃったけんど知恵者じゃった。料理のことわざも秘訣も、そらで覚えてござったしこじゃ。

  料理の秘訣
一、三つぼはねたら、もう()れた。(ゴマ)
一、魚は大名に焼かせろ、もちは乞食(こじき)に・・・。
一、一合雑炊、二合粥、三合飯に四合寿司、五合もちなら誰でも食う。
一、ワサビは気短ものにすらせろ。
一、赤子泣いてもふたとるな。(炊飯)
一、青菜に塩。
一、生で食おうか、それとも焼こか。(魚)
一、秋なすは嫁に食わすな。
一、味付け順はサシスセソ。

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