

「店へ行ったって何も食うものがない。」
と、家内は言う。店頭には所狭しと海山の幸が並べられていると言うのに、不可思議千万なことだ。
そうして思案の末買い求めて来たものは、塩鱒の切身三切れに豆腐一丁であった。
みんな、みんな、物の豊かさに溺れてしまい、口も肥え感覚もマヒしてしまっている。
もう今日の食卓には、心ある料理が失われ、科学と栄養学に身動きできなくなってしまっている。
そして、挙句の果て、
「何を食っても、うもうない。」
よく言えたもんじゃ。自分で作りおりさって、鱈腹食いさって。
兎角、おしゃべりばかりで心がない。敬虔さがない。
「店へ買いにいきゃ何でもあるが、しんぼうせにゃ。」
むかしのおふくろはこう言った。
そして、そこいら辺りにあるものを、季節に合わせ家族の心に合わせて根気よく利用した。
浅い考えであっても、血のにじむような尊い汗の知恵であった。家族の命脈を保たん
が為の技量だった。
おふくろの姿も随分とかわったものだ。昔のおふくろは本も新聞も読まなかった。
でも、良いことを言ってくれさっせたし、たわけのやーなまねはするなって叱らっせた。・・・

― 春 ―
おらが春を食ったかえ…山菜
おみゃ春を食ったかよ
朴葉(ほうば)めし
つきユグイ
雑魚煮(ざこに)
― 夏 ―
芋の煮っころがし
地味噌…ひきずり・木っ端(こっぱ)味噌・朴葉(ほうば)味噌
山菜の煮しめ
稗(ひえ)の飯
うむし飯・へぼ飯
― 秋 ―
山家豆腐・ショウエイ
鷲見(わしみ)かぶら
じんだ
自然薯(じねんじょ)のとろろとイナゴ(むかご)飯
高たかまんま(和え物・煮しめ等々)
― 冬 ―
酒のたしなみ
南瓜粥(かぼちゃがゆ)・荏(え)めし
鰊(にしん)ずし
おせち料理と山家雑煮
旨(うま)いものは大勢で
骨だんご
餓鬼大将への季節の誘い
おかし(報恩講のおかし)
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