ひだ
たかはら川
[越中平野の中央を流れる神通川をさかのぼっていくと、飛騨との国境で河は二つに分かれる。高山の方に南上していく宮川と、乗鞍火山脈のふところ深く遡行していく高原川である。]とは新田次郎の作品で古くより知り、笠ヶ岳、高原郷を一度訪れてみたいと思っていた。
大阪から地元へ戻って渓流熱がぶり返し、釣具屋通いを始めた頃、先輩二人と初めてのたかはら川で竿を出したのが平湯川出合いより少し下流の県道沿いだった。やたらと川原が広くて硬そうな大石がゴロゴロしている川で、「昼を過ぎると雪代が入って濁るからナ」と言われ、どう変わるやら判らぬままそそくさと支度をして持参したせむしを餌に竿を振った。川岸にはぎっしりとがいむしの巣があり、温泉が多いここらは水温が高めで水生昆虫が多いことを知る。見ると振り込んだ目印の横を3月だというのに羽化したカゲロウが流れていく。「どうや釣れたか?もう時間やぞ」と声をかけられふと気がつくと澄んでいた川がまさに白濁しかかっている。豪雪地帯ならではの雪代というものを知った。ここは大きめの成魚放流が盛んだそうで、なるほど魚体はでっぷりしているがビクに入れるとすぐにハラワタが腐り、天然魚のように硬くなることがなかった。やまめ・あまごの混生放流にがっかりしたが、年を越して美しい魚体を取り戻した尺近いイワナが度々渓流竿を絞り込むのもこの川が初体験だった。
釣りクラブを始めてからも何度かたかはら川へ通い、良い思いをすることも多かったが、釣り雑誌などであまりにも有名になりすぎて釣り人が増え、監視員も昔と比べて横柄になって釣堀化してしまったので足が遠のくこととなった。上流の蒲田川あたりの露天風呂も、以前は竹筒に100円放り込んで板囲いだけの脱衣所から小走りに枯葉の沈んだ道路から丸見えの露天風呂へ飛び込めたのに、今は見る影も無く趣味の悪い建造物に覆われてしまっている。
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