「お迎え現象」

  おだやかな「看取り」について

今、クローズアップ現代の「 天国からの“お迎え”〜看取り(みとり)が問いかけるもの〜」を見ている。

以前、「 幽体離脱」や「 臨死体験」を調べたことがある。
そういう現象があることは間違いないと思う。
今、TVでやっているのは、「 お迎え現象」。
500人の方の遺族にアンケートをとったところ、4割の人にお迎え現象があったという。
しかも、その人たちのほとんどが穏やかな死を迎えたという。

お迎え現象とは、
死を迎えた人が、両親や友人、ペットなど、また、古里の山など懐かしい人やモノを見る現象。

これらは人間に備わった、自己防衛本能のようなもの。
ただ、病院では起こりにくく、安心できる場でないとダメなようである。
在宅医療をしている医師にとっては珍しいものではないらしい。
「 今そこに来ていたのに、先生が来たらどこかへ行ってしまった。」
と怒られたり、
「 お母さんが来ているんですか?」「 ええ、先生、そこに来てます。」
と示してくれるという。

ご自身も癌である緩和ケア医師の岡部健さん
「 私にとって寿命を一分一秒でも延ばすということは絶対、いいことなんだと思ってたのに、受け取る側の患者さんは、ちっともそう考えてなかったんだね。
これで、ちょっと、がく然としましてね。」
それまで、延命をすることが最善の医療だと思っていたが、それが本人や家族にとって最良の方法だったのだろうか?と疑問を投げかけていた。

コメンテーターの東京大学名誉教授の大井玄さんが、
なぜそういう現象がおきるのか、どうして穏やかになるのかという質問に、
「 私たちは、記憶や経験から世界を再構成しているから、当然こういう現象が起きても不思議ではない。
子どもの頃、怪我をしたとき、おなかが痛かったとき、お母さんにさすってもらったら痛みがなくなったという経験と同じようなものですよ。」
と語る。
それまで、「 死にたくない」と言っていたお母さんが、母親のお迎えを見てから実におだやかな表情になったと娘さんが話していた。
「 私も母のような死を迎えたい。」と。

家族と一緒に、おばあさんに食べさせてあげたりしながら、臨終を看取ったお孫さんが、
お母さんがおばあさんの顔に化粧をしているのを見て突然涙ぐんだ。
その女の子に、おばあさんに伝えたい言葉は?と聞くと、
「 ありがとう」
おばあさんはどこへいったの?
「 まだ、心の中にいるから・・・」
と答えていた。

私たちは、死を遠ざけることによって、かえって死を恐れ、死を忌み嫌うようになったが、老いと死の場面を、子どもたちに見せることも大事なことだ。
「 生老病死というのは、これは自然のプロセスですから、実際にそれを体験する、経験することにしか学べないんですね。子どもは本当に学べます。私が知っている例でも、ひ孫がおばあさんの死に化粧をしたって、そんなこともありますから。」
と大井さん。
さらに、
「 私たちは、死を遠ざけていることによって、むしろ死に対する恐怖というものを、それを強くしている。それはいろんな事情がありますし、戦争であるとか、そういうような不幸な経験がありますけれど、今、一番に求められているのは、死というものを身近な自然なものだと、そういうふうに見直していく、そういう作業だと思います。」

「 最もいい看取りとは?」という質問に、
「 子どもたちのにぎやかな笑い声ですね。
 インディアンの詩にもありますように、
   『 子どもたちの笑い声が聞こえる。
    子どもたちは家に戻ってきた。(私は家に戻ってきた。)
    さあ、今日は死ぬのにはもってこいの日だ。』
 そうだと思います。」

大井先生が静かに語る話はとても印象的だった。


[大井玄先生のコーナー]
[認知症と向き合うために]
  「 生」「 老」「 病」「 死」のサイクルを受け入れれば、認知症は怖いものではなくなります

    仏暦二五五五年( 二〇一二年)九月

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